先日テレビで、和太鼓の名手「林英哲」について特集をやっておりました。
林氏は和太鼓の大変な名手でして、世界を股にかけてオーケストラとの競演をするなどの活躍をされています。
テレビ番組の題名は「アインシュタインの眼」というもので、高性能のカメラやスペクトラムアナライザーなどの計測機材を駆使して、名人の技術のわけに迫ろうというものです。
さて、三味線の胴も基本的には太鼓ですし、撥を使って音をだすという点でもおおいに類似しています。それで、なにか参考になるようなことがあるのではなかろうか、と思って観ました。
3点ほど感じたことがありました。
1 撥の握りについて
一番関心を覚えた点です。
テレビでは、様々な打ち方を高速度カメラで撮影したのですが、撥を皮にヒットさせる際の動きとしては、次のようになるようです。
@ 撥を出来るだけ後ろに引く。(他の奏者と比べると林氏は5〜10センチほど後方に位置しています。)
A スナップを効かせながら、皮面に向かって撥を高速で振る。(他の奏者と比べると、後方より出発させた撥は、他奏者を追い抜くようにして、より高速で皮にヒットしています。)
B ヒットの瞬間は握りの力を抜く。(これはスローの映像で、はっきりそれと分かる状況でした。)
つまり、ストロークを長くして、高速で撥を振り込み、ヒットの瞬間には握りを緩める、ということです。
言い換えれば、運動エネルギーをできるだけ大きくして、(手を握り締めることで生起する)エネルギーの減衰を押さえながら、それを効率よく皮面に伝える、ということではないかと思いました。
このことは三味線の撥さばきにも、そのまま当てはまるように思います。
勿論、出したい音によって撥のさばき方も異なるのですが、基本操作については同じではないかと思います。
テレビを見ながら思い出したのですが、私の先生も、撥さばきの基本を次のように言っておられました。
[トップ]‥まず手首を返す(まわす)ようにして、撥を大きく開く。
[ダウンスイング]‥スナップを効かせて、手首を返す(まわす)ようにして、打ち下ろす。
[インパクト]‥(詳細な説明はありませんでしたが、)イチローの打法のように力まないで打ち込む。
[フォロー]‥(この部分は、太鼓と全く異なりますが、)皮をぐっと押さえる。
三味線では、最後に皮を押さえるというアクションが入るので、全体的に撥を握り締めて操作するべきという考えを持ちやすいのですが、基本の撥さばきとしたは上掲のような、太鼓と同じようなやり方ではないか、と思いました。
2 音色について
テレビでは、大太鼓の皮面の打つ場所を変えながら音をだすデモが行なわれました。
たしかに、音色が異なります。
太鼓には違いないのですが、その範囲で、音色(ねいろ)が変わる様子がよくわかりました。
三味線でも場所の打ち分けをしますが、曲に変化をつけるためにも重要なテクニックです。これまでは、あまり気にしておりませんでしたが、今後気をつけながら稽古したいと思います。
3 高周波音について
どういう理由によるものか分かりませんが、林氏の出す音と普通の奏者の出す音をスペクトラムアナライザーで比較すると、林氏のそれでは高周波成分が確かに盛り上がって(レベルが大きく)なっています。
歌手の中に、たとえば宇多田ヒカルの歌声を同じように分析すると、通常人間の耳には聞こえない数十kHzの成分が含まれており、それが彼女の声を心地よく聞かせる元になっているといいます。
林氏もこれに関連して言っていましたが、太鼓の演奏中に子供が寝るのだそうです。多分これが高周波成分が醸し出す心地良さの原因なのであろう、ということでした。
この部分は、三味線には直接関係がないように思えますが、ひょっとしたら「さわり」によって発生する倍音のなかにそれが含まれているかもしれません。興味深いところです。良く分かりませんが、いずれにせよ、きれいなさわりの音が出るような調音をするのに越したことはないように思います。
名人の域に入ると、太鼓という単純な楽器にも大変深いものがあることが分かりますし、そういう領域に至ると、他のものとの関連が見えてくるような気がします。そして、ひょっとしたら、森羅万象あらゆるものが共通の何かで繋がっているのではなかろうか‥などと思ってしまします。
早速、撥の稽古をしてみましたが、なんだかいけそうな気がします。
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